遺言
遺言の方式
普通の遺言の方式には- 公正証書による遺言
- 自筆証書による遺言
- 秘密証書による遺言
公正証書遺言のメリット
- 原本を公証役場で保管する上、原本のデータを日本公証人連合会で二重に保存しますので第三者による改ざんの恐れがありませんし、正本を万一紛失、滅失しても再現でき安全、安心です。
- 遺言の効力に関わる形式面や手続に遺漏なく、内容面や相続税等についても公証人が説明させてもらいますので適正な遺言ができ安心です。
- 遺言者の意思を直接公証人が確認しますので効力が争われる恐れが少ないといえます。
- 遺言執行者の指定やその効果等についても公証人の適切なアドバイスが受けられ、遺言執行の手続がスムーズに行える遺言が作れます。
- 他の遺言書(自筆証書遺言、秘密証書遺言)の場合は、相続人が家庭裁判所に赴き、裁判官の「検認」手続を経なければなりません。公正証書遺言は面倒な家庭裁判所の「検認」を受ける必要がありません。 家庭裁判所の「検認」とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。 遺言書(公正証書による遺言を除く。)の保管者又はこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければなりません。また、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。
- 日本公証人連合会の遺言検索システムに登録されることになりますので、相続人の方が被相続人の公正証書による遺言書がなされたかどうか容易に探すことができ便利です。
遺言能力について
遺言は15歳以上であればすることができます。ただ、遺言をするには、その人が遺言をする時点で意思能力を有していることが必要です。 意思能力があるかないかの判断は公証人が行いますが、的確に判断するため場合によっては、お医者さんの診断書を取っていただく必要があります。遺言でできること
遺言では、相続や遺贈の内容を明らかにする以外にも次のようなこともできます。公証人とよくお打ち合わせになった上で決めてください。- 遺産分割の禁止
- 遺言執行者の指定
- 遺留分減殺方法に関する意思表示
- 未成年者に授与する財産の管理権を親権者から奪う意思表示と管理者の指定
- 祭祀主宰者の指定
- 相続人の廃除、その取消し
- 一般財団法人の設立
- 信託の設定
- 未成年後見人の指定
- 子の認知
証人について
公正証書遺言作成には証人2人の立会いが必要です。 次の者は、証人にはなれませんのでご注意ください。- 未成年者
- 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
- 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び使用人
- 署名不能者
- 口授聴取・理解不能者
遺言相談所(Q&Aのコーナー)
遺言書を作成したら、その後財産処分ができなくなったり、遺言内容を取り消したりできなくなりますか?
そのようなことはありません。一旦遺言書を作成しても、生前に財産処分することはもちろんでき、またその後生じた事情の変更、考え方の変化、財産の増減等によって遺言内容を変更したり撤回することも自由です。遺言の内容が効力を生じるのは、遺言者が死亡した時点であり、したがって遺言者は死亡するまではいつでも遺言の方式に従って既にした遺言を全部又は一部撤回することができます。
遺言で世話になっている○○さんに財産を遺贈しようと思いますが、もし○○さんが自分より先に亡くなったときは、○○さんに遺贈しようと思っている財産は当然その子どもの△△さんに承継されますか?
遺贈の場合、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した時は遺言の効力は生じません(民法第994条1項)。ですので○○さんが遺言者より先に死亡したら、○○さんが受けるはずであった財産は、遺言者の相続人が相続することになり(民法第995条)、○○さんの子どもの△△さんが承継することにはなりません。もし○○さんが先に死亡した場合には△△さんに財産を承継させたいとお考えなら、「○○さんが遺言者より以前に死亡した場合は、その財産を△△さんに遺贈する」旨の予備的遺言を作成しておくことをお勧めします。
遺言で遺言執行者を定めておけば便利と聞きましたが、どういうことですか?
遺言執行者とは、遺言の内容を実現する立場の者です。遺言の執行は、本来遺言者の相続人が行います。しかし、遺言事項によっては相続人間の利害が対立したり意見が合わなかったりしてなかなか協力が得られず、公正で迅速な執行ができない場合もあります。遺言執行者の指定が遺言でなされていると、たとえば遺言執行者のみで遺言者の預貯金の払戻しや解約など、また登記の名義変更等が迅速、円滑に行えます。なお、遺言執行者に相続人や受遺者を指定することもできます。
母は現在入院しています。頭はしっかりしているのですが病気のため言葉を発することができません。それでも公正証書遺言を作成できますか?
公正証書遺言は本来遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授(くじゅ)し、公証人が遺言者の口授を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させることにより作成します。口がきけない方はこの口授ができないのですが、民法改正により、平成12年1月から、口のきけない方や耳の聞こえない方でも公正証書遺言をすることができるようになりました。口のきけない方でも自署できるなら公証人と筆談により、手が不自由で自署できない方は、通訳人の通訳を通じて申述することにより公証人にその意思を伝えれば公正証書遺言を作成することができます。
自分の死後、残される認知症気味の妻のことが気掛かりです。最終的に子どもらに財産を残そうと考えていますが、妻が生きている間は生活が困らないようにするためにいい方法がありますか?
まず、子どもさんのうち誰かに遺産を相続させる代わりに、その子どもにあなたの奥さんと同居したり、奥さんの生存中生活の面倒を見るなどの条件を付す負担付の遺言を書くことが考えられます。 そのほか、特定の子どもさんとの間で、あなたの奥さんを受益者(信託による利益を受ける者)とし、あなたの死亡したときなどから自宅や金融資産の管理と給付を委託する信託契約を結んでおくことも考えられます。この信託は、生前の信託契約だけでなく遺言によってもすることができ遺言信託と呼ばれています(信託法第3条2号)。その後奥さんが亡くなられて信託の目的が達せられて終了した時点でまだ残っている財産があれば、それを子どもや他の親族等に相続や遺贈することも遺言で書くことができます。詳しくは当サイトの福祉型信託のコーナーをご覧ください。
先日主人が亡くなり、私が主人の財産を全部相続しました。主人との間には2人の子(長男と長女)がおり、私は長男に全財産を継がせたく思っており、その旨の遺言書を書いておこうと考えていますが、長女が文句を言ってこないか気掛かりです。長女は今のところ相続放棄をすると言ってくれていますが、私が死んだら心変わりするのではないかと心配です。長女に家庭裁判所に放棄の申立てをしておかせるのがいいでしょうか?
あなたの生存中に、あなたの相続人の一人である娘さんに相続放棄をさせることはできません。相続の放棄は、あくまでも相続が開始した後、つまりあなたが亡くなられた後にしかできないからです。ただ、遺留分を有する相続人の遺留分の事前放棄は家庭裁判所の許可を得てなしえます。あなたの娘さんは遺留分を有する相続人に当たりますので,相続の開始前すなわち被相続人となるあなたの生存中に、家庭裁判所の許可を得て、あらかじめ遺留分を放棄することができるのです。心配ならば、娘さんに遺留分の事前放棄手続きを取っておいてもらうとよいでしょう。
私は、この度長年連れ添った妻と協議離婚しました。私たちには子供はなく、数年前、私たちはお互い私は妻に、妻は夫に全財産を相続させる旨の遺言書をそれぞれ作成しました。離婚した場合にこの遺言の効力はどうなるのでしょうか?
最高裁第二小法廷昭和58年3月18日判決(家月36・3・143)は、「遺言の解釈に当たっては、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し確定すべきものであると解するのが相当である」旨判示しています。この判例は、遺言の解釈は遺言当時の事実関係を考慮すると言っていますが、遺言後の事情は考慮の対象になるのかについては触れていません。遺言後の事情は考慮の対象外ということなら離婚によって先になされた遺言の効力は左右されず、離婚後あなたが亡くなれば、あなたの元妻が全財産の遺贈を受けることになります。あなたはそのような結果を甘んじますか?もしその結論に異論がなければ遺言を書き変える必要がないと思いますが、異論があるなら遺言書を書き直しておくべきだと思います。なお、この件にぴったりの判例は見当たりませんが、養子縁組後にその養子に財産を遺贈する旨の遺言を作成したが、その後に協議離縁したケースについて、最高裁第二小法廷昭和56年11月13日判決(民集35・8・1251)は、「遺贈は後の協議離縁と抵触するものとして取り消されたものとみなさざるをえない」旨判示しています。これは養子縁組が、養子から終生扶養を受けることを前提としていたことから、協議離縁は前に本件遺言によりされた遺贈と両立せしめない趣旨のもとにされたものというべきとされたもので納得できる結論ではないでしょうか。これと同様に、離婚の場合もそれが前の遺言と両立せしめない趣旨のもとにされたことが明らかである場合は遺言は取り消されたと見る余地が大いにありそうです。いずれにしろ争いを後に残さないため、あなたの意思を明確にしておく意味で遺言書の書き替えをお勧めします。
遺言書を作成してもらう場合、費用はどのくらいかかりますか?
財産の総額や遺言の内容によって異なりますが、たとえば、3,000万円の財産を一人に相続させる遺言の場合、作成費用は約35,000円です。ただ、病院などへ出張して遺言書を作成する場合は、別に日当や旅費が加算されます。公正証書遺言は、その原本を公証役場で長期保存し、またデータも二重に保存されますが、保存にかかる手数料は一切いただきません。なお、手数料のコーナーも参照ください。
親が亡くなったのですが、公正証書で遺言を残していないか調べてもらえますか?
はい、昭和64年1月1日以降に公正証書で遺言を作成しているならデータベース化していますので全国どこの公証役場でも調べることができます。すなわち遺言者が死亡した場合、相続人、受遺者、遺言執行者等法律上の利害関係を有する者なら遺言公正証書の検索・謄本請求ができます。その場合の必要書類として、①遺言者が死亡したことを証明する除籍謄本等の書類、②請求者が利害関係人であることを証明する書類(相続人なら戸籍謄本)、③請求者の身分を証明する公的機関発行の書類(運転免許証、パスポート、写真入り住民基本台帳カード又は印鑑証明書と実印)をご用意ください。検索だけでしたら無料です。なお、遺言者が生存している間は、秘密保持の観点から遺言者本人だけしか検索・謄本請求できず、たとえ利害関係人だったとしても問い合わせには応じられません。