事実実験公正証書

事実実験公正証書とは

 法律行為以外の私法上の権利に関する事実についても公正証書を作ることができます。公証人は、自らが五感の作用により直接体験した私権に関する事実について公正証書を作成することができ、このような法律行為以外の私権に関する事実について作成する公正証書を事実実験公正証書と呼んでいるのです。

 事実実験公正証書を作成しておけば、公務員である公証人によって作成された公文書として、裁判上真正に作成された文書と推定され、高度の証明力を有しますので、証拠保全の効果が十分期待できることになります。

たとえばどのようなものですか?

 代表的なものとしては、次のようなものがあります。

  • 貸金庫を開扉し内容物を点検・確認する際に立会って作成するもの
  • 特許権、実用新案権等知的財産権の保全に関して先使用権や他社の侵害事実を立証するため作成するもの
  • 土地の境界争いの際における現場の状況の確認・保全に関して作成するもの
  • 株主総会の議事の立会見聞に関して作成するもの
  • 尊厳死宣言公正証書など関係者の供述を録取する形で作成するもの

尊厳死宣言・人生の最終段階における医療等に関する事前指示公正証書

 現代の医学では不治の状態にあると断ぜざるを得ないのに、いたずらに延命措置を施すだけという患者さんも少なくないように思われます。延命(生命維持)措置に関する医療技術も進歩しており、患者が植物状態で長年生きている例もめずらしくありません。そこで、自分が万一そのような不治の病に罹患し、回復の見込みのない末期の状態になった場合に、単に死期を引き延ばすためだけの過剰な延命措置を行わないよう医師や親族等の関係者に宣言しておくのが尊厳死宣言です。

 

 「尊厳死」とは、一般的に「回復の見込みのない末期状態の患者に対して、生命維持治療を差し控え又は中止し、人間としての尊厳を保たせつつ、死を迎えさせることをいう。」と解されています。そこには単に延命を図る目的だけの措置がかえって患者を苦しめ、その尊厳を害しているのではないかという問題認識があります。「自分の最後の時期は自分で決したい」「周りの家族らに物心両面での負担・苦労をかけさせたくない」との患者本人の意思、すなわち、患者の自己決定権を尊重するという考えが重視され、多くの人に受け入れられてきているように思います。

 ただ、尊厳死宣言があるからといって医療の現場では必ずそれに従わなければならないとまではいえず、必ずしも尊厳死が実現するとは限りません。しかしながら尊厳死宣言がある場合の医師の尊厳死許容率は毎年96パーセント近くまで達しており(日本尊厳死協会の機関誌「リビング・ウィル」のアンケート結果による。)、医療の現場でも、尊厳死の考え方は広く容認されていると考えられます。

 また、延命措置に関する希望だけにとどまらず、人生の最終段階における医療とケアのあり方について、当の医療等を受ける立場の患者の意思は最大限尊重されるべきであり、厚生労働省は、この点について、「人生の最終段階における医療決定プロセスに関するガイドライン」を公表しています(平成19年5月、改訂平成27年3月)。そこには、人生の最終段階における医療においては、できるだけ早期から肉体的な苦痛等を緩和するためのケアが行われることが重要であるとし、緩和が十分行われた上で、医療行為の開始・不開始、医療内容の変更、医療行為等の中止等について、十分な情報と説明に基づく患者の意思決定(インフォームド・コンセント)が大切であるとされています。このような状況の下で作成される人生の最終段階における医療等に関する事前指示書は、患者の自己決定権を尊重することにつながるだけでなく、医療関係者の法的責任の回避、家族等の心理的苦悩や感情的苦痛の軽減回避等にも大いに役に立つもので注目されています。もちろん、本人の考えが変われば、後に取り消すことも可能です。

 公証役場では、お客様の尊厳死や人生の最終段階における医療に対する真摯で切なる思いを聴取する事実実験を行い、その思いの実現のためにふさわしい公正証書を作成させていただいております。  なお、これらの公正証書作成に代えて、私署証書の認証で行うことも可能ですのでご相談ください。